川久保文紀『国境産業複合体　アメリカと「国境の壁」をめぐるボーダースタディーズ』青土社、2023年 www.seidosha.co.jp/book/index.p... 学説史のレビューや、トランプの壁にとどまらない歴史的な射程、米墨のみならず米加国境も含めて、多様なアクターが織りなす政治の分析と記述が刺激的かつ魅力的でした。

朝井リョウの小説『イン・ザ・メガチャーチ』日本経済新聞出版 info.nikkeibp.co.jp/books/campai... これは凄かった。「ファンダム」の話に限られない、「ポスト真実」の世界における「視野を広げて本質を見ようとする」営みの意味を問うていて、現在の日本の政治のこと社会のことなどいろいろ考えてしまう。

川上泰徳『ハマスの実像』集英社新書 shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1226-a/ 読了。ハマスの来歴から組織の実体と主張に至るまで、90年代からの30年にわたる取材をベースに、豊富な情報量で紹介してくれていて、パレスチナを考えるのに欠かせない一冊だと思います。

加藤喜之『福音派―終末論に引き裂かれるアメリカ社会』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2025... とても勉強になりました。福音派を通してみるアメリカ現代史といった感じで、井上弘貴『アメリカ保守主義の思想史』（青土社）と対にして考え続けたいテキストでした。

友松夕香『グローバル格差を生きる人びとー「国際協力」のディストピア』岩波新書 www.iwanami.co.jp/book/b101350... 五十嵐『支配する人道主義』が援助が階層的な権力関係を創ってきた歴史を論じているとすれば、本書はそうした階層関係がいま現地でどう捉えられているかを見ていて、対で考えたい好著でした。

歴史フェスの出展ブースで買った藤原辰史『食権力の現代史 ナチス「飢餓計画」とその水脈』人文書院 www.jimbunshoin.co.jp/book/b101346...　 を読了。ナチスの飢餓政策を現在に至るより大きな歴史的文脈のなかに位置づけ、徹底的に現在を照射する。とにかく圧倒的な、「現在と過去の対話」の極点のような凄い仕事。

E・H・カー（中村研一訳）『平和の条件』岩波文庫 www.iwanami.co.jp/book/b101328... 原書でかじってはいたけれど、中村研一先生訳でいま読むと、1942年の時点でどうしてこんな分析と考察ができるのかと、同時代史家としてのカーの凄みに改めて唸らされる。自分的にインパクト溢れる、何度も立ち返って考え続けたい一冊です。

ハンス・クンドナニ『ユーロ・ホワイトネス～帝国主義と植民地主義から見る欧州統合～』一藝社 www.ichigeisha.co.jp/database/pro... カルマー『白人になれない白人たち』とまた異なるホワイトネス論でハンディな分量ながら刺激的。注も有用なガイドで現在の世界秩序を考えるためにしっかり消化したい一冊でした。

土屋和代『福祉権運動のアメリカ』岩波書店 www.iwanami.co.jp/book/b101341... 公民権運動史で零れ落ちる、福祉権を掲げた受給者たちの運動を歴史的に読み解く。職を求めるだけでなく、家事育児がフルタイムの労働だからこそ報酬が支払われるべきだという今日的で普遍的な議論の形成とその顛末が興味深いです。

松中権（編著）『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 10年の軌跡』サウザンブックス thousandsofbooks.jp/project/outi... 読了。自分もあの時現場におり救急車で搬送されていくところを見ていたので、大学内外で様々な立場から関わってきた人たちの思考と活動の軌跡に考えるところが多々ありました。

大清水裕『ローマ帝国とアフリカ カルタゴ滅亡からイスラーム台頭までの800年史』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2025... 文明化史観に影響されてきた歴史像を、アフリカに視座を置き、その意味やアフリカの人々がローマにもたらした影響を問う。古代史研究の先端を垣間見るようでエキサイティングでした。

大治朋子『「イスラエル人」の世界観』毎日新聞出版 mainichibooks.com/books/social... 『勝てないアメリカ』以来、大治記者の書かれるものはフォローしてるけど、これはまたいま読まれるべき現代イスラエル政治社会論で勉強になりました。トラウマやPTSD等についての専門的な勉強が活きた取材と記述が印象的。

秦郁彦『陰謀史観』新潮新書 www.shinchosha.co.jp/book/610465/ 2012年の刊行だけど、2025年の日本やアメリカの今を念頭に読むとまた興味深い。

林博史『沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか』集英社新書 shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1260-d/ 沖縄戦の展開から、その歴史的初期条件・沖縄の置かれた構造、その後の結末まで、膨大な蓄積を咀嚼して整理して提示。とてつもない圧巻の仕事で、これが新書として読めるのがまた凄いこと。

野添文彬『大田昌秀―沖縄の苦悶を体現した学者政治家』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2025...　 知事として直面した政治の困難が浮かび上がり、まさに沖縄とは何かという問いを突きつける。個人的には戦争経験と研究者としての歩みが興味深く、特に『沖縄の民衆意識』は読まなければと思い、ポチりました。

油井大三郎『日系アメリカ人 強制収容からの〈帰還〉』 岩波書店 www.iwanami.co.jp/book/b657225... 収容からリドレス運動までの各局面・各トピックについて文献調査から論点を抽出して丁寧に分析・記述してくれていて、後進が勉強するのにありがたい良書だと思いました。

梶原麻衣子『「“右翼”雑誌」の舞台裏』星海社新書 www.seikaisha.co.jp/information/... WiLLやHanadaの編集者を務めた著者の体験の回顧を主とした右派雑誌論。豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』によって気づきを得られた話とか、「対話」の必要性とその難しさの話とか、いろいろ考えさせられるところがある。

富永京子『なぜ社会は変わるのか はじめての社会運動論』講談社現代新書 www.kodansha.co.jp/book/product... 読み物として面白く読めるけど、教科書的な体系性と網羅性があり、社会運動論に限らずそもそも理論とは何か、理論をどう使うか、学説史は大事、などといったことを実感させてくれる好著だと思いました。

『政治思想学会会報』第60号が刊行されました。『政治思想研究』編集委員会からのお知らせ「政治思想研究論文の「型」について」が掲載されています。学会員以外の方にも有益だと思いますので、ぜひお目通しください。 jcspt.jp/wp-content/u...

P・E・モスコウィッツ（著）丸山雄生・宮田伊知郎（訳）『都市殺し ジェントリフィケーション・不平等・抵抗』明石書店 www.akashi.co.jp/book/b665136... ニューオーリンズ、デトロイト、サンフランシスコ、ニューヨークの4都市を素材としたジェントリフィケーション論。20年前にテッサ・モーリスｰスズキが『自由を耐え忍ぶ』（岩波書店、2004年）で論じた「市場の社会的深化」の行き着く極地を見たといった印象で、読ませます。

井上弘貴『アメリカの新右翼─トランプを生み出した思想家たち』新潮選書 www.shinchosha.co.jp/book/603932/ これはまず井上『アメリカ保守主義の思想史』（青土社、2020年）を踏まえてからの、ここ5年の動向のフォローアップとして勉強になる。ノリス『反中絶の極右たち』（明石書店、2025年）とも共鳴する内容。

米国Gallupの最新の世論調査。 トランプ政権下だとむしろ移民のイメージが向上し、移民に対して寛容で包摂的な政策を求める傾向は今回も。 ・移民はアメリカにとって「よいもの」64％（前年）→79％（過去最高）　なお、共和党支持者では「よいもの」39％→64％！ ・未成年の非正規移民に市民権への道を　81％→85％ ・非正規移民に市民権取得の機会を　70％→78％ ・非正規滞在者は強制送還すべき　47％→38％ アメリカ世論のバランス感覚というか復元力というか。 news.gallup.com/poll/692522/...

浜由樹子『ネオ・ユーラシア主義ー「混迷の大国」ロシアの思想』河出新書 www.kawade.co.jp/sp/isbn/9784... ドゥーギンの思想については『現代思想』等でも勉強させてもらってきたけど、こうしてまとまった形で展望できて、とくにパナーリンの思想などを中心に、改めてとても勉強になりました。カルマー『白人になれない白人たち』（彩流社）とあわせ、今日に至る世界秩序史を考えるための必須の手がかりと思います。

河合信晴『物語 東ドイツの歴史　分断国家の挑戦と挫折』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2020... 体制安定化のために民意を懐柔し正統性を調達し続けるべく展開した補助金による消費財の価格維持政策が、徐々に矛盾を呈するようになり、限界に向かっていくその過程の記述と説明がとくに勉強になりました。

赤根智子『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』 文春新書 books.bunshun.jp/ud/book/num/... ICCの裁判官・所長としてのここ数年の経験の回顧やご自身の半生を語りながらの、分かりやすいICC入門となっており、同時に日本の果たす役割への期待のメッセージでもあり、広く読まれて欲しい一冊です。

越智萌『だれが戦争の後片付けをするのか—戦争後の法と正義』ちくま新書 www.chikumashobo.co.jp/product/9784... 易しい書きぶりでわかりやすいけど、やってることはとんでもなく凄い圧巻の仕事。

大木毅『天才作戦家マンシュタイン 「ドイツ国防軍最高の頭脳」―その限界』角川新書 www.kadokawa.co.jp/product/3221... 『ロンメル』、『グデーリアン』、『独ソ戦』と読んできたけど、こちらも巷間流布してきたイメージをめぐって実証研究に依拠して問い直しすものでとても勉強になりました。 戦前はヴェルサイユ条約への鬱憤からナチの拡張政策を支持しつつも、戦後になると国防軍はナチとは縁がなかったという「神話」を形成するのに大いに役割を果たしていくその生涯に、いろいろ考えさせられるところがあります。

宮間純一『明治維新という物語　政府が創る「国史」と地域の「記憶」』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2025... とても面白く読みました。歴史とは何かという話やパブリックヒストリーの話の具体的な事例として重宝すると思います。

鳥飼将雅『ロシア政治　プーチン権威主義体制の抑圧と懐柔』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2025... これまで各論的な解説をかじって勉強してきたけど、本書は政治・経済・社会まで総合的に現代ロシアの来歴とその「手強さ」の秘訣みたいなものを体系的に提示してくれていて、理解が一新され深まりました。

生井英考『アメリカのいちばん長い戦争』集英社新書 www.shueisha.co.jp/books/items/... いちばん長い戦争（ベトナムからアフガンへ）と向き合う／向き合い損ねたアメリカを政治史と文化史をつなぎあわせ通観する。古矢旬『グローバル時代のアメリカ』岩波新書と同じ時代を扱うもまた異なる魅力的な同時代史。

土屋健『恐竜大絶滅　陸・海・空で何が起きていたのか』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2025... サイエンスライターの著者が最新の研究動向を各専門家の監修も得ながら紹介している。読み物としてとても面白かった。個人的にはNHKでやっていた隕石衝突後も南半球で恐竜がしばらく生き残っていたという説について知りたかったのだけれど。

小笠原弘幸『ハレム―女官と宦官たちの世界―』新潮選書 www.shinchosha.co.jp/book/603877/ ハレムの女官やそこで勤務する人々を取り巻く制度と歴史を描いていて、建築と権力のような点からも、とても興味深く読みました。

シャン・ノリス『反中絶の極右たち　なぜ女性の自由に恐怖するのか』明石書店 www.akashi.co.jp/book/b657388... これは強烈なジャーナリストの仕事。欧米で展開する生殖に関する女性の権利への攻撃のトランスナショナルな思想・運動・資金・政治の諸相を詳らかに。今日の世界理解のための欠かせない一冊。

木村幹『国立大学教授のお仕事——とある部局長のホンネ』ちくま新書 chikumashobo.co.jp/product/9784... 身につまされるという点で昨年の多井学『大学教授こそこそ日記』と通じるけど、書きぶりはかなり違っていて、こちらは個人の経験からの観測を交えて国立大学のこの30年の変化と現状を体系的に詳述。挿絵も良い。

ケイトリン・ローゼンタール『奴隷会計 支配とマネジメント』みすず書房 www.msz.co.jp/book/detail/... 経営史と奴隷制史を架橋し、奴隷制が前近代の遺物ではなく20世紀のテイラーシステムに通じる、すぐれて近代的な会計やマネジメントの知と技法の実践の場だったことを示していて、とても興味深かった。

映画『そして、アイヌ』を観てきた。とても良かったです。 soshite-ainu.com

紀平英作『リンカン　「合衆国市民」の創造者』岩波新書 www.iwanami.co.jp/book/b657237... 面白く読みました。前半が特に勉強になりました。ここは論点になるだろうというところはいろいろありますが、ところどころで見られる、近現代世界史のなかの一片として考えようとする姿勢が印象的。

麻田雅文『日ソ戦争　帝国日本最後の戦い』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2024... アジア太平洋戦争のエピローグ的に終わってしまいがちな日ソ戦争について、国際政治から満州・朝鮮・樺太・千島における戦争の現場に至るまで、情報量豊富な記述で最新の議論を基に描く。読み応えあり、勉強になりました。

藤永康政『〈黒人自由闘争〉のアメリカ史 公民権運動とブラック・パワーの相剋』岩波書店 iwanami.co.jp/book/b654973... キング＆南部での運動を中心に据えた公民権運動史像を相対化し、ブラックパワーとのゼロサムではない黒人自由闘争の歴史として提示。現在と過去の対話の手本のようで勉強になりました。

R・H・ロービア『マッカーシズム』岩波文庫 iwanami.co.jp/book/b248689... いろいろ思うところあってたぶん15年ぶりくらいに再読。古いテーマながら、各所に散りばめられたその分析は現在のアメリカと日本の政治・社会に突き刺さる。

増永菜生『カフェの世界史』SB新書 www.sbcr.jp/product/4815... 高校で歴史総合を勉強している人にも勧められるような配慮の行き届いた丁寧な歴史の記述に、歴史漫画の紹介や現在の展開、著者自身の見聞などが織り込まれていて、読み物として秀逸でとても面白かったです。

アイヴァン・カルマー『白人になれない白人たち 中欧の反リベラリズムとレイシズム』彩流社 sairyusha.co.jp/book/b101055... これは凄まじく面白かった。現在の世界秩序を論じるのにも白人性（ホワイトネス）の視座が不可欠だということを実感させられる。何度も立ち返り反芻したい一冊。

「回りに結集していた人々にとっては、マッカーシーがXとかA、BとかZについて言っていることが厳密にいって正しいか、間違っているかは実はどうでもよかった。かれらの考えでは、政府部内の共産主義者と自由主義者や国際主義者の区別は些末な議論なのだ。みんな棍棒で叩きのめすべき犬なのだ。そして、マッカーシーは棍棒をもって都合よく立ち現れた最初の人なのであった。」（R・H・ロービア『マッカーシズム』岩波文庫）

USAIDをめぐる陰謀論の拡がりは、ああマッカーシズムもこんな感じだったのかなという感じで勉強になるし、日本でもほんの一ヶ月前までUSAIDの存在すら知らなかっただろう人たちにも大いに受容され、拡大している様相は、同時代史としてしっかり観察し、記録しておかなければならないと思っている。

上川多実『〈寝た子〉なんているの？ー見えづらい部落差別と私の日常』里山社 satoyamasha.com/books/3078 読了。部落ではない場所で育ち、運動団体にモヤモヤを抱くようになった著者がその半生を振り返り、日常の生活のなかで「問題」を他者に伝える方法を模索してきた記録で、いろいろ考えさせられる。

鶴見太郎『ユダヤ人の歴史古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2025... 3000年の歴史を詰め込んだ、情報量豊富で濃密な記述ながら、「組み合わせ」、「カスタマイズ」、「主体か構造か」という視座・枠組がとても良く効いていて、叙述のお手本のようでした。

トランプ政権トラッカー：大統領令の概要と解説 instituteofgeoeconomics.org/research/202...

【随時更新】トランプ氏が大統領令に続々署名　一目で分かる政策一覧 digital.asahi.com/articles/AST... 「第2次政権の発足以降、トランプ氏が署名した大統領令（大統領覚書、布告も含む）。その主な内容を、最新情報に随時更新しながらまとめていきます。」

吉田裕『続・日本軍兵士―帝国陸海軍の現実』中公新書 www.chuko.co.jp/shinsho/2025...　 天皇の軍隊故の特質のような枠組でなしに、徹頭徹尾日本の国力・医学・技術という観点から兵士たちの置かれた現実を描く。文献・史料の渉猟ぶりとそれを自在に使いこなしながらのバランスの良い叙述に、いつもながら脱帽。

『歴史評論』2025年2月号（特集／警察史の可能性）所収の林田敏子「ジェンダーの視点から考える警察史」 www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/ma... がとても興味深く、勉強になりました。