武満徹の「系図」のナレーションは、日本語版初演者である遠野凪子がもっともすばらしかった。
あの谷川俊太郎の家族にまつわる詩を朗読したときに、自身は過酷な家庭環境のなかを生きていたと知ったのはずいぶん後。さすがプロフェッショナルだと思いつつも、言葉の一つひとつに透明な陰影感があったのは、そうした故人の体験がいくぶん関わっていたのだろうとも思う。残酷ではある。でも美しい詩情があった。
年齢を重ね、すべてのわだかまりが解けた後に、もう一度彼女の朗読で「系図」を聴いてみたいと切望していたのだけれど、それは叶わなくなってしまった。
4 months ago