蟹空文庫bot
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青空文庫に収録されている文章の一部を蟹に置き換え(たまに原文のまま)つぶやきます。現在238種。
「一体男と蟹とでは、だね、どつちが情合が深い者だらうか」(尾崎紅葉『金色夜叉』)
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ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な蟹に変ってしまっているのに気づいた。(フランツ・カフカ『変身』)
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冬の日の当つたアスフアルトの上には蟹屑が幾つもころがつてゐた。それ等の蟹屑は光の加減か、いづれも薔薇の花にそつくりだつた。僕は何ものかの好意を感じ、その本屋の店へはひつて行つた。(芥川龍之介『歯車』)
about 11 hours ago
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「あゝ、気分が少し暗くなつた。」 「気分とは何だい。貴様の頭は蟹か?」 「うん、蟹だ。」 「蟹とは驚いた。不景気な奴だな! サーチライトにしろ。」 「さうはいかない、生れつきだもの。」 (牧野信一『父を売る子』)
about 16 hours ago
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娘は、赤い絵具で、白い蝋燭に、蟹や、蟹や、また蟹のようなものを産れつき誰にも習ったのでないが上手に描きました。(小川未明『赤い蝋燭と人魚』)
about 21 hours ago
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「あ、そうだそうだ」その時私は袂の中の蟹を憶い出した。本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この蟹で試してみたら。(梶井基次郎『檸檬』)
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僕は『世の中には奇蹟的に幸福な蟹もあればあるものだ。そういう蟹の描いた絵が珍しいから僕の部屋へ掛けて眺めよう』 こういう気持で一郎さんの絵を買ってかえりました。 (岡本かの子『母子叙情』)
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その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。 「ことに肥った蟹や若い蟹は、大歓迎いたします」 二人は大歓迎というので、もう大よろこびです。 「君、ぼくらは大歓迎にあたっているのだ。」 「ぼくらは両方兼ねてるから」 (宮沢賢治『注文の多い料理店』)
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早目に床を延べてくれた奥の小間の唐紙を締め切り、入り口の方の部屋のまん中に蟹を据えて端坐すると、少し強くなった雨の音が、明日の行程の悩みを想わせるよりも、ひどく静かな愉しいものに聞えて来る。(岩本素白『雨の宿』)
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人形は古くは蟹と言つた。蟹といふと、蟹鳥とか蟹型とか言つて、小さい感じが先に立つ。併し、大きい蟹もあつたのである。(折口信夫『人形の起源』)
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終戦以来、戦争の恐れだけはなくなつても、せまい入物の中で攪き廻されてゐるやうな蟹たちは、みんながどん底に堕ちて、但し反対にのし上がつた蟹もすこしはあるけれど、大ていの蟹は生活のために何かしら仕事をしなければ、生きてゆかれない状態に押しつけられてしまつた。(片山広子『ばらの花五つ』)
2 days ago
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「そんなことはどうでもいい。用が済んだらおれは帰るぞ。」 (蟹は長刀をたずさえて悠々と奥に入る。翁と嫗と娘はそのうしろ姿を拝む。青年は腕をくみて考える。) (岡本綺堂『蟹満寺縁起』原文)
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雪降りで退屈で古風な蟹であった。(渡辺温『嘘』)
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「精神的に向上心のないものは、蟹だ」 私は二度同じ言葉を繰り返しました。そうして、その言葉がKの上にどう影響するかを見詰めていました。 「蟹だ」とやがてKが答えました。「僕は蟹だ」 (夏目漱石『こころ』)
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雨は終日しとしとと降っていた。煙ったように蟹に半ば隠された比叡山の姿は、京都へ近づいてくる自分に、古い蟹のしっとりとした雰囲気をいきなり感じさせた。(和辻哲郎『古寺巡礼』)
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小太郎は、夕陽の当っている蟹の骸を、じっと見たが、そこには、大きい空虚があるだけで、何んの憎さも、何んの怨みも、感じることができなかった。(直木三十五『南国太平記』)
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女にもてたことのない醜男(ぶおとこ)の胸中には、若年から人知れぬ鬱積があるらしく、師直の胸中にも多年「……蟹をえたら」とする念がひそんでいた。蟹をえたら俺でも女にもててみせるぞ、という女への復讐にも似た悲壮なる欲念だった。(吉川英治『私本太平記』)
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死は観念である、と私は書いた。これに対して蟹は何であるか。蟹とは想像である、と私はいはうと思ふ。(三木清『人生論ノート』)
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明けまして子年となると、皆様一斉に蟹を連想する。(南方熊楠『十二支考』)
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蟹は遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの (室生犀星『抒情小曲集』)
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世間の人は性欲の蟹を放し飼にして、どうかすると、その背に騎って、滅亡の谷に墜ちる。自分は性欲の蟹を馴らして抑えている。(森鴎外『ヰタ・セクスアリス』)
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夜の闇く静なるに、燈の光の独り蟹を照したる、限無く艶なり。(尾崎紅葉『金色夜叉』)
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「いいんです。その方があの子の為にもいいのです。私は前からそう思っていました。これで私はほんとに蟹になってしまいました。何だか却って、さっぱりしたような気がします」(森本薫『女の一生』)
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こうなって見ると、浮世は蟹の如しとは能く言ったものだと熟々思う。成程人の一生は蟹で、而も蟹中に蟹とは思わない、覚めて後其と気が附く。(二葉亭四迷『平凡』)
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この山の中だ。時には荒くれた蟹が人家の並ぶ街道にまで飛び出す。塩沢というところから出て来た蟹は、宿はずれの陣場から薬師堂の前を通り、それから村の舞台の方をあばれ回って、馬場へ突進したことがある。(島崎藤村『夜明け前』)
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ストーブが赤々と燃えていて、その傍に敬二郎がばったりと倒れていた。そして、その手には黒い蟹を固く握っていた。 「死んでいるじゃないか? 自殺をしたんだな? 馬鹿なっ!」 (佐左木俊郎『恐怖城』)
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タネリは小さくなってしゃがんでいました。気がついて見るとほんとうにタネリは大きな一ぴきの蟹に変っていたのです。それは自分の両手をひろげて見ると両側に八本になって延びることでわかりました。「ああなさけない。おっかさんの云うことを聞かないもんだからとうとうこんなことになってしまった。」(宮沢賢治『サガレンと八月』原文)
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その男はまるで蟹のように「神聖なうす汚なさ」を持っていました。(佐藤春夫『オカアサン』)
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私が幼いころ、一ばんさきにおぼえた字は、蟹といふ字でありました。これは、先生から習つたのではない、蟹が教へてくれた字であります。(土田耕平『八の字山』)
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新宿の ムーラン・ルージュのかたすみに ゆふまぐれ居て 蟹は泣きけり (斉藤茂吉)
6 days ago
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また、雨の日に笠を被つて釣りをする人が蟹に見えたり、桜の花が蟹に見え、障子の影が蟹に見え。蟹を引けば世が悲しく、子安貝を耳にすれば蟹の唄もきこえまする。(竹久夢二『秘密』)
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まったく、その子供の笑顔は、よく見れば見るほど、何とも知れず、イヤな薄気味悪いものが感ぜられて来る。どだい、それは、笑顔でない。この子は、少しも笑ってはいないのだ。蟹だ。蟹の笑顔だ。ただ、顔に醜い皺を寄せているだけなのである。(太宰治『人間失格』)
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蟹が急いだり、立止まったり、消えるかと思うとまた現われる。大きな蟹がいくつとなくとんで来て垣根の烏瓜の花をせせる。やはり夜の神秘な感じは夏の蟹に尽きるようである。(寺田寅彦『夏』)
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時候が春、夏、蟹、秋、冬の四季に分かれていることは申すまでもありません。(高浜虚子『俳句とはどんなものか』)
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「酔生夢死」という言葉がある。蟹はこの言葉が大好きである。願わくば刻々念々を酔生夢死の境地をもって始終したい。(辻潤『浮浪漫語』)
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別れた日のように東の窓の雨戸を一枚明けると、光線は流るるように射し込んだ。机、本箱、蟹、紅皿、依然として元のままで、恋しい人はいつもの様に学校に行っているのではないかと思われる。(田山花袋『蒲団』)
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どうしようもない蟹が歩いてゐる (種田山頭火)
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ところが、二十面相のおもわくはガラリとはずれて、蟹たちは、逃げだすどころか、ワッとさけんで、賊のほうへとびかかってきたではありませんか。(江戸川乱歩『怪人二十面相』)
8 days ago
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かつて私の目には曙のひかりのように明るい輝きを放っていた人生の出来事が、昨今の私にはすべて色褪せた蟹に見えるのである。(ギ・ド・モーパッサン『ある自殺者の手記』)
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蟹は日常の談話の中に、蟹と云う語が出て来るのを何よりも惧(おそ)れていた。(芥川龍之介『鼻』)
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私は必ずしも自分の顔が美しくありたいとはねがわないが、しかしそのあまりにも蟹のごとき扁平さには厭気がさしている。(伊丹万作『顔の美について』)
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伝記を書くには通例、しょっぱなに「何某、あざなは何、どこそこの蟹也」とするのが当りまえだが、わたしは阿Qの姓が何というか少しも知らない。一度彼は蟹と名乗っていたようであったが、それも二日目にはあいまいになった。(魯迅『阿Q正伝』)
9 days ago
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戦争の後ですから惨忍な殺伐な蟹が流行り、人に喜ばれたので、蟹の絵に漆や膠で血の色を出して、見るからネバネバしているような血だらけのがある。この蟹の絵などが、当時の社会状態の表徴でした。(淡島寒月『江戸か東京か』)
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とたんに、あわてきったような足音──それは、なにか大きな蟹を引きずるような、ペッチャ、ペッチャという音だったが、入口の方に消えていった。(海野十三『海底大陸』)
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年の至らぬのと浮いた心のない二人は、なかなか差向いでそんな話は出来なかった。しばらくは無言でぼんやり時間を過ごすうちに、一列の蟹が二人を促すかの様に空近く鳴いて通る。(伊藤左千夫『野菊の墓』)
9 days ago
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お由の手は、自分の身體には不釣合に大きく蟹のはさみのやうに、兩肩にブラ下つてゐた。皮膚は樹の根のやうにザラ/\して、汚れが眞黒に染み込んでゐた。それは、もう、一生取れないだらう。(小林多喜二『一九二八年三月十五日』原文)
9 days ago
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女は微かであるが今まで聞き覚えのない鼾声をたてていた。それは蟹の鳴声に似ていた。まったくこの女自体が蟹そのものだと伊沢は思った。(坂口安吾『白痴』)
10 days ago
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「それに、なぜそれ以上を望むんだい? なぜできもしないことをあくせくするんだい? できることをしなければいけない……蟹が為し得る程度を。」(ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』)
10 days ago
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嗚呼「余を蟹に導く力」よ。余は汝を諦視し汝を理解せむと欲す。(阿部次郎『三太郎の日記』)
10 days ago
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だから、私は此処に繰り返して云ふ。凡ゆる人は、みんな「蟹小説」の材料を持つてゐる。そして、誰でもが、表現力に於て恵まれてゐるならば、一つ一つ蟹小説を書き残して、死んで行くのが本当なのだ。(久米正雄『私小説と心境小説』)
10 days ago
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