今年の686本目は『ノスフェラトゥ』を観た。かつてロバート・エガースには、趣味が良く深みのあるティム・バートンのようにならないで欲しいと願ったのはあながち的外れでもなかったようだ。吸血鬼自体はあまり怖くなくて、リリー＝ローズ・デップの顔と身体の歪みの方がよっぽど怖い。

今年の685本目は『一人オーケストラ』を観た。メリエスにとって映画は奇術ショーだった。フィルムの物質感だけがメリエスの敵であり障害だった筈だが、物としてのフィルムを手中に治めたことを強調する本作のような幻影の共有を積み重ねることで、メリエスは自身の実態と写像の境界を曖昧にした。

2025年下半期の振り返り。あんまり面白くないかも... note.com/koji_shibuya...

今年の684本目は『名犬ラッシー ラッシーの試練』を観た。ウェルメイドなラッシー映画ではあるが、愛する主人の墓に執着する犬を描いた映画ならば、犬の落胆と衰弱の経過だけを描いたタンハウザーの驚くべき怪作『A Dog's Love』の存在には全ての忠犬が裸足で（元々裸足だが）逃げ出すしかない。

火星の庭での「鈴木慶一 、鈴木博文　 その詞を語る 火星の庭で仙台で」にお越しいただいた皆様、ありがとうございました。正味2時間半ぐらい、お二人からキラ星の如き歌詞群について、いい話が聞けました。初めて聞く逸話がどんどん出てきて、大興奮でした。「ウラニウム万歳」の話が出来て良かった！

今日はちよじの命日。気性は荒いししょっちゅう遠出してハラハラさせられたけど、かわいい奴だった。

現実レコーズのBASE SHOPにアップしました。 ・工藤夏海『真夜中のパーティー』2026 Calendar ¥1000 ・工藤夏海『Ponkorera』2026 Calendar ¥1000 ・yumbo『川を見下ろす』zine ※残部少 ¥500 genjitsu.base.shop

今年の683本目は『山荘物語』を観た。ラッシー映画としては珍しく、人間の役者たちのドラマと演技が（多少絵空事めいているとはいえ）興味を惹き続けるおかげでバランスよくラッシーも愛でることが出来る、ある意味で理想的な出来栄え。パーシー・キルブライドが輝いた映画としても記憶したい。

今年の682本目は『ルノワール』を観た。戦後をも引きずった80年代日本のアジア的な暗さ、鬱陶しさは今じゃないとここまで鮮明に描けないかもしれない。僕も父に競馬場へ連れて行かれた事があるが、様子は違っても、馬や絵、電話の向こうに広がる可能性など、個人的記憶を喚起するエピソードが多い。

今年の681本目は『The Call to Arms』を観た。FPSの素晴らしい仕事により、まるで昨日撮られたかのように鮮明で、細部がよく見える。メッセンジャーを演じるピックフォードをはじめ、全員が過剰に腕を振り回し、嘆きながら崩れ落ちる。この演技作法の時代は終わりに近づいているが、本作では健在だ。

今年の680本目は『A Frontier Flirtation; or, How the Tenderfoot Won Out』を観た。3人の男女による寸劇のクオリティはともかく、スクリーンではなくミュートスコープを想定してビッツァーが撮影したことに興味を引かれる。20世紀初頭のいかがわしさと怪しい覗き穴の中の呆気ない笑いの融合。

今年の679本目は『La Fée aux étoiles』を観た。パテが1902年に製作した一連の非現実的でファンタジックなダンス映画の最高傑作。月と星を並べて「これでいいんだ」と腕組みしている美術さんのほくそ笑む顔が目に浮かぶようだし、実際、そのミニマムな目論見は大成功している。

今年の678本目を『Aubade à la lune』を観た。ロシア人が大切に保管していたパテの二重露光ファンタジー。月に憑かれたヒロインのあり方はケネス・アンガーの『ラビッツ・ムーン』のピエロを思わせる。

今年の677本目は『Amphitrite』を観た。パテがメリエス的ファンタジーの過剰さの裏をかいて発想したように見える、映画の空間における暗部を利用した白い身体の非現実的なダンス。1902年における上映環境を想像すると、充分にエロティックな演し物だったのかもしれない。

今年の676本目は『Lady Helen’s Escapade』を観た。幾分茶番めいてはいるものの、フローレンス・ローレンスのコメディエンヌとしての才能を確認出来る貴重な映画。階級格差はグリフィスの好むテーマの一つだったわけだが、暇を持て余したリッチな女性が音楽家を囲うという結末で誰が幸せになれるのか。

今年の675本目は『Unexpected Help』を観た。善良で騙されやすいグリフィス映画の登場人物たちのすったもんだは完全に見飽きたと思っていたのだが、夫が大金を失って半狂乱になり誰彼かまわず助けを求める妻や、銃を携行している聖職者など、まだまだ未発見の細部が現れてくるのは喜ばしい事だ。

今年の674本目は『故郷の丘』を観た。クロロホルムを麻酔に使用していた19世紀を舞台にしたメディカル・ドラマ。ラッシーが時空を越境したことで皆が幸せになれることを証明した佳品であり、ラッシー映画の暫定的最高傑作。スコットランドの過疎の村の閉鎖性によってのみ醸し出せる冬の神秘。

今年の673本目は『名犬ラッシー ラッシーの勇気』を観た。愛犬が知らぬ間に戦争に行っていた、という一種の奇譚のような筋立て。森の動物たちと無邪気に戯れていた子犬に襲いかかる、人間どもの不埒で理不尽な魔の手には怒髪天を突く。泥まみれの戦場では、さすがに穏和なラッシーも怒り出した。

今年の672本目は『サンドウ』を観た。ボディビルダー／格闘家としてだけではなく、どことなく性格の悪そうなサンドウが華麗にバック転を決める軽業師でもあったことは映画にとって有難い事だった。

今年の671本目は『グライナーとサンドウのレスリング試合』を観た。ドイツ人のサンドウは、スクラダノフスキー兄弟のビオスコープ作品にもいち早く登場している。独特のオモチャっぽい動きは、キネマトグラフに比べると何だかいたいけな感じがする。

今年の670本目は『怪力男サンドゥ』を観た。驚くべきことに、ボディビルダーというのは130年前から何も変わっていない。キネトスコープで過剰な肉体を凝視していたであろう19世紀の観客たちにとっては、ワイルドで珍しい見世物として機能していたのだろうか。

今年の669本目は『Panorama from Times Building, New York』を観た。マカッチョンによるNYパノラマ。同じマンハッタンを撮った風景映画でも、シーラー＆ストランドの『マンハッタ』と違ってハドソン川を視野に入れていない（タイムズ・ビルからは見えないのだろうか？）。

今年の668本目は『Ammunition Transport Proceeding Through a Mountain Pass』を観た。日露戦争時に弾薬を輸送する隊列を3シーンで捉えた記録映画。このようなアーカイブがBFIにあるらしい。川を渡るショットなどはもろ西部劇を連想させる。

今年の667本目は『Sleighing Scene』を観た。冬のセントラルパークで撮られた、エジソンスタジオのリュミエール風映画。カメラの前を横切る2人の通行人の様子から、自然発生的な風景映画ではないことが分かる。無理にこじつけるなら、映画の演技は横切ったり歩き去ったりすることから始まっている。

今年の666本目は『名犬ラッシー ラッシーの息子』を観た。話の半分以上がナチス占領下のノルウェーが舞台なので、ほぼ戦争映画と呼んで差し支えない。ジョーとはぐれたラディーを助けようとするいたいけな子ども軍団や、上官に「道化師」と呼ばれるナチスの丸っこい軍曹は嫌いじゃなかった。

音凪企画・2年ぶりのyumbo 大阪雲州堂2DAYS「わたしたちの国」にお越しいただいた皆様、ありがとうございました。原さんもコルネッツも凄まじくカッコ良かった！演奏する手元を凝視しながら、楽器を弾くって凄い事なんだなと今更ながら感動してしまいました。僕も早く弾けるようになりたいです。

今年の665本目は『カレイドスコープ』を観た。軽快なカリプソのリズムに乗せて愛煙家たちの肺へ煙草を送り込む、めくるめくレン・ライのアブストラクト映画。混じり気の無い色彩の愉しみに浸りながらも、動きと編集の熱狂的なテンポには職人的な情熱を見出すことができる。

今年の664本目は『酔っ払い幻想』を観た。対話の可能性を追求した初期フィッシンガーの傑作。急激に、そして連鎖的に変異する動きの中に垣間見えるアクションを凝視しているうちに、フィッシンガーが見ている夢の中へ没入していくような抗し難い奔流に飲まれる。

今年の663本目は『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』を観た。自分と「親友だった人」や、自分が初めて心を開いた誰かについての思い出をいやがおうにも喚起される。ローレンの16ミリによって幸福になった主人公に深く共感する。そして僕も『マグノリアの花たち』は観ていない。

11/24(月)は姫路poyarnにて、サイレント映画友の会「サイレント映画と『アート』」をお送りします。かなりムチャな内容になりそうで今から楽しみです！

yumbo、2年ぶりの大阪2DAYS「わたしたちの国」 明日と明後日です！！！ 原マスミ／コルネッツ、どちらも必見です。 次はいつ行けるか分からないので、皆様ぜひ。 限定zine、Tシャツ、カレンダーなど物販も充実してます。 ご予約は音凪まで [email protected]

今年の662本目は『Wachsexperimente』を観た。スライスした蝋を撮影して抽象的な映像を作り上げるというオスカー・フィッシンガーの得体の知れない熱狂に反するように、捉え所のない幻覚的なリズムが蝋の深淵、蝋の真髄を我々の脳に浸透させる。デュシャンのロトレリーフを液状化したような過激さ。