肌を突き刺すほどの乾風が服の僅かな隙間に入り込む。ぴゅう、と音を立てて吹くたびに周りからは吝かでもない悲鳴が上がっていた。
「さみぃ」
鍛錬を擬人化したような男でも流石に寒いらしく、適当に着込んだコートの前身頃を掻き集める。北の海は他に比べても極寒な海域だったため自分にとってこのぐらいの寒さは慣れたものだ。
「こういう時は熱燗に限るな、今夜呑もうぜ」
呑気に喋る男は鼻の頭を赤くしつつ快活に笑う。緩やかに弧を描く唇から白い息が漏れ出す。白く宙に舞い、溶けて消えてしまう東からきた男の一部が寒空に奪われるのがなんだか癪に感じ、乾燥で荒れたそこを己の唇で塞いでやった。
「なにすんだ」
「…なんとなく」
18 days ago