母屋の開き扉の前に木彫りの不動明王像が置いてあって夜になると目が光るとうわさされている。それは沖の海軍の船が打つ信号の強い光が反射して起こる現象で光り方にもさまざまな意味があるが子どもたちはそんなこと知らない。そのうちの若い奥さんが教えてくれた。夜が退き明るくなると奥さんはいろいろな種類の旗を上げて信号に応えた。
日露戦争が終わり市井にも若い男がちらほらと戻ってくる中で、奥さんはいまだ孤独なままだ。入れ替わりの激しい女中どもは冷たい。先の戦争で孫が死んで以来実家とも疎遠になってしまった。ある日古い銀の懐中時計がこの家に帰ってきて、奥さんは雪の中の花のような顔色で微笑んだ。
1 day ago